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ほんとに今は、サイトに何も無いので(ほんとに)、書き途中のギリシア神話小説をここで顔見せさせときます。ホント、最初の部分だけですが。一ページほど(短ッ

トロイア戦争で最初の犠牲となった男と、その妻の話です。
神さまは冥界夫婦と霊魂導師しか登場しない予定。


  一、ピュラケ
 
 テッサリアのピュラケの空には暗雲が垂れこんでいた。
 それは朝の訪れと共に人々の活力と希望を与える太陽神が、ピュラケの人々の気持ちを汲んだためか。それとも遠いトロイアの地にて流れる勇士たちの流れる血を悼んでいるためか…。
詳細は定かではないが、ここ一週間前からピュラケの空に輝く天空の光は、鈍く光るだけであった。
「ああ、本当にお労しいことだよ」
 陰気な声がすぐ側から聞こえて、若者は空から視線を下ろし、その声の主を振り返った。
「最初に若様が亡くなられて、次にまさかラオお嬢様まで…。あんなに素敵なお二人でしたのに」
「あんた、泣くのはお止しよ」
「そうは言ってもねぇ。それに、領主さまのお気持ちを考えると、涙を止めることなんてできやしないよ」
 若者のすぐ近く、恰幅の良い女たちの声は暗雲とした空同様に暗い声であった。
 それも涙を流し、鼻をすすっているのはその女達だけではない。周りに溢れたピュラケの人々も似たり寄ったりであり、また皆が同じ視線の先を追っている。
 若者もまた同じように視線を、茜色に染まった西空の方向へと向けた。
 視線の先では黒い衣服を身につけた人々の葬列が広がっている。
 泣き女の啜り泣く声や、笛吹きの笛の音が墳墓から若者のいる所まで寂しく届いた。その音の悲愴な響きに、周りの空気が一層に重く人の肩にのしかかる。
「あたしゃね、ご覧になったんだよ。お嬢様のお顔をね」
 悲愴な空気が辺りに漂う中を、先程の恰幅のよい女の声が響いた。
 女は涙を流す連れの背を撫でながら、また目に涙を浮かべながら、若者と同じく墳墓の方へと視線を上げる。
「ほんとに、ほんに、幸せそうなお顔をなさっていたよ。今頃はきっと、若様とご一緒にお幸せになっているはずさ」
 その言葉に根拠はなく、態の良い女の希望でしかなかった。けれど、誰も女の言葉に異を唱える者は現れなかった。誰もが女の言葉に縋っているのだ。
 亡くなった若夫婦のためか、はたまた自分のために。
「けれどやはり、それは願望でしかない」
 若者はそっと口の中で小さく呟いた。
 ――現実は女の言うようにはならないのだ。
 そう思って、はたと若者は小首を傾げた。そうして苦笑する。
「これも僕自身の憶測でしかないな。否定なんてできやしないか」
 唯一、女の言葉に応えることができる二人は、既にこの世にはいないのだから。
 若者は自嘲の笑みをそっと浮かべて、だがすぐに――兄姉たちから何を考えているのか解らないと言われる――笑みを貼り付け、恰幅の良い女の元へ歩み寄った。
「失礼、ご婦人方」
 近づいてくる若者の姿に気がついたのだろう。女は不思議そうに、また訝しげに若者を見据えてくる。
 その視線に気付かぬ振りをして、若者は女に向かって何気なく問いかけた。
「私は旅の者でタレスと申します。少々、話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか」
 用意しておいた偽名を淀みなく口にしながら、玲瓏たる微笑みを湛えて女に問う。
 人の良い笑みが幸を成したのか、それとも元々おしゃべりな質なのか、女は若者の申し出に頷いた。


続きはいずれアップされる「情想」にて。
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Author:津川宥
日々妄想しながら、ぼちぼち小説を書いてます。
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