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ぶつぶつ呟いたり妄想を晒したり小説を載っけたりしてます。
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時翔を書き、リボーンのパラレルを書きながら気晴らしにオリジナルの小話を書きました。

名も無き人達。しかも珍しく舞台は現代です。
( 本当に小話 )( 中学生なのか高校生なのかも謎 )

まあ、気晴らしですから!

 



『とある男子生徒とその先輩の話』

 
 ふと、俺は思ったのだ。何をかと言うと、漫画でよくある告白シーン。そう、憧れと恋慕を抱いた相手を特定の場所に呼び出して「好きです。付き合ってください」というアレだ。好きな相手を呼び出して自分の気持ちをさらけ出すその勇気を俺は認めよう。だが、その並々ならぬ勇気と結果が比例するわけではないことが事実であり残酷な現実であることに気がついたのだ。突然の告白が成功する確率は極めて低い。
 だがもし成功したとしても、俺としては少し納得がいかないものがある。いや、成功したことは俺としても嬉しい。俺の友達だったら赤飯を母に炊いてもらうよう催促する。そのくらい嬉しい。しかし俺がここで気にしているのは告白を受けた方がそれでいいのか、という事だ。以前から友達で親しく付き合っていて少なくとも自分も相手のことを好いていたならばよし。だけど顔見知り程度で相手のことを知りもしないのに告白を受けるのはどうだろう、ということだ。もちろん付き合ってみてから相手を知ればいい、という意見があることは知っているがそれは告白をした相手にとって物凄く失礼なんじゃないかと俺は思う。だから俺は「試しに付き合ってみる」行為はひどい侮辱行為だと思うことにしたわけだ。
「――うん、それで?」
 数歩距離をあけて立つその人の相槌に、俺は満面に笑みを浮かべて肯いた。
「うん、だから友達から始めれば何の問題もないよな!」
 俺としてはこれほど良い案はないと思うほどの提案であったのが、前方に立つ俺の想い人はそうではなかったらしい。
 先輩は綺麗に微笑んでみせてから、冷酷な一言を告げた。
「却下」
 あまりにも綺麗に微笑まれたものだから俺の脳はその一言を理解するのに時間が掛かったらしい。できの良くない俺の脳のおかげで俺は言われた内容に悲観することなく、替わりに疑問符を貼り付けて首を傾げた。
「却下?ってことはええと――つまり友達はダメってことッスか」
「うん、そう」
「えっ、じゃあ恋人ならOK?」
「それはさっき自分で納得できないって言ってなかった?」
 そうだった。
 彼女と俺は友達でも親しい間柄ではないので(ただ同じ学校に通う生徒であるというだけ)(つまり同級生でもない)(ぶっちゃけ赤の他人だ)、これで恋人同士になってしまっては先程の私論と矛盾してしまうことになる。
「いや、ちょっと待った。友達になるのに許可って必要ないよな。つまり許可が必要ないなら却下も無いってことで、うん。大丈夫!」
 我ながら何が大丈夫なのかよく分からないが俺がそう宣言すると、先輩は眉間に皺を寄せて、それから小さく溜息を吐き出した。そして切れ長の瞳で真っ直ぐに俺を見てくる。
 ああ、やばい。心臓がバクバクしてきた。顔が赤らんでくるのが自分でもわかる。まあ、仕方ないだろう。好きな相手を前に対峙していて冷静になる方がおかしい。
 それでも俺は腹にぐっと力を入れて、先輩の言葉を待った。
「確かに友人になるのに許可は必要ないけど…、気が合わないと思う人間と友人関係を持つこともないよね。お互いに接点がないと特に」
「接点はこれから持てばいいじゃん! それに気が合わないなんてまだわかんねーだろ」
「いや校内放送で人を体育館裏に呼び出した挙げ句にいきなり私論を語ってくる相手と気が合うとは思わない。だいたい何で校内放送? 体育館裏っていうのも変だけど」
「え、ああ俺、放送委員だから。何で体育館裏かっていうのは、ほら呼び出しってそういうイメージがあったからさー……なんか変だった?」
「変というか、体育館裏っていうと不良のお礼参りに呼び出されるイメージだから、私は」
「ああ、不良か!」
 不意に生まれた腹に巣くう蟠りが先輩によってあっさり解けて、俺は満足げに肯いた。
 なるほど、確かに体育館裏というイメージはあまり良いものでは無かったかもしれない。俺は自分が呼び出した場所を省みて少々反省する。(なにぶん今日放送室で昼食を食べている最中に先輩と友達になろうと思い至ったので、呼び出しの場所を気にしている時間が無かった)それでもまあ、彼女が此処に来てくれたのでとりあえずは良しとした。
「まあいいや。とにかく友達な!」
「嫌だ」
「……そんなハッキリ。流石に傷つくんスけど」
 明確な拒否の言葉に俺はガックリと肩を落として俯いた。その次の瞬間、まるで示し合わせたかのように昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。そしてそれと同時に、いつの間にか近づいてきていた先輩が口に笑みを浮かべて言う。不思議とその声がチャイムに邪魔されることはなかった。

 
「嘘だよ」
「友達ならなってあげる。それ以上は君の頑張り次第だけど」
「とりあえず、今度会った時はまず名前を名乗るようにね」

 
 去り際に俺の肩を軽く叩き、先輩はチャイムの余韻を背に体育館裏から姿を消していった。
 先輩の姿が見えなくなり、そこで俺はハッと我に返る。大変だ、五限は数学である。体育館から教室まではひどく遠い上に、数学は確か宿題を出されていたはずだ。確か今朝そのことを思い出して昼休みの時間にでも解こうと思っていたことまでもが芋づる式に思い出される。もちろん、今ここにいる俺が宿題を解けたわけがない。俺は慌てて体育館裏から校庭へと出た。
 そしてふと、先輩は五限の授業に間に合うだろうかとそんな心配が脳裏によぎる。しかしすぐにそれは杞憂に変わった。校庭にはこれから体育の授業なのか、既に数十人の生徒が屯していて、その中に先輩の姿を見つけたからだ。そこでそういえば先輩はジャージを着ていたな、と今になって思う。
 そんなことを考えながら校庭を横切るように走っていくと、先輩と目があった。立ち止まりたい気持ちを制しながら、会釈だけですませて全速力で教室を目指す。
 視線を反らす瞬間、彼女が笑ったような気がした。穏やかな、とは言い難い、まるで不敵ともいえる笑みで。
 ――ああ、しまった。
 そして脳裏をよぎったのは彼女が最後に放った言葉。
 ――名前。言うの忘れてたんだ、俺。
 失敗したなぁと思う反面で、やっぱり結構緊張してたんだなーと再確認した俺は自分に対して苦笑した。
 
 その男子生徒が「友達になってあげる」という先輩の許しを得た事実に気がつくのは、自分の席に座り、数学の宿題を友人から借りて今まさに答えを写そうとしたその瞬間だった。
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Author:津川宥
日々妄想しながら、ぼちぼち小説を書いてます。
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