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ぶつぶつ呟いたり妄想を晒したり小説を載っけたりしてます。
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恐るべし
じ ゃ が り こ ! ! !

気づいたら手に持ってレジに並んでるって…!なんという力だ…くっ…。


久しぶりに小話を書いてみました。
すごく時間がかかりました。まあ、本当に全く全然今まで書いてこなかったからなぁ。仕方ないね。だから見逃して。お願い。
ギリシア神話の神さまの中で主人公をあげるなら、やっぱり一番はゼウスかな。私はヘルメスが大好きですが、彼を主人公として一つの物語を書こう、という気にはなれないんですよねぇ。小話でいっぱいいっぱい。
今日の小話は、短編的な感じで続くかもしれない。あくあまで「かも」です。ヘラとのラブコメも書いてみたいもんですね!(なんか言ってる)
ちなみに小話の中のゼウスさんはまだ若いですよ。18?くらいで。


++++


 さわさわと、海を渡り行く風がゼウスのすぐ側を吹き抜けていった。
 ふと、かすかに海の残り香を彼のもとへ残していった風の行方を仰ぎ見る。一番に目に飛び込んできたのは、蒼天。吸い込まれそうなほどに高く、鮮やかに色づいた蒼穹でスミレ色の瞳が染まる。そして風を追うようにして飛び立った鳥の群れを見つけ、彼はその瞳をゆっくりと細めた。自然と口元が弧を描く。
 そうして飛翔する鳥から視線を下げ、既に興味は失われたのかあっさりと踵を返した。
 進む足取りに迷いはなく、彼は目的の場所へと飛ぶように駆けていく。左手に摘んだ花束を落とさぬようにと、しっかりと握りしめながら――。


 クレタ島のとある小高い丘の上には、一つの小さな墓石があった。
 立派なものではない。何も知らぬ他者から見れば、墓石などと思わぬような、どこにでもあるような歪な形をした粗末な石である。けれどそれは、ゼウスがまだ『外』へ出ることを許されずにいた頃にニンフ達の目をかい潜って建てた、精一杯の<彼女>の墓だった。
 ゼウスが大半の時間を過ごしたのはイデ山の洞窟だったが、彼はそこを<彼女>の墓にはしたくなかったのだ。イデ山の洞窟はゼウスを優しく受け入れてくれていたが、日の光を望む彼をまるで牢獄の中の囚人のように閉じこめ、放さなかった。幼いゼウスの世話をするニンフ達もそれは変わらない。そんな中で温かな日陽を浴び、澄んだ水の匂いと樹木を嗅ぐわせる<彼女>の存在はゼウスにとって大きかった。いわば<彼女>はゼウスにとって『外』と繋がる唯一の存在である。そんな彼女を、冷たい洞窟の中で眠らせることはしたくなかった。だからこそ、ニンフ達も寝静まった夜にこっそりと洞窟を抜け出し、ゼウスはこの丘を見つけた。
 ゼウスは見下ろすようにしてその墓石の前に立ち、先程摘んできた野花たちをかざした。
 小さな墓石の前に色とりどりの花が咲き散らばる。さらに、かつて<彼女>がそうしてくれたように、ゼウスの元へ残された彼女の角の中に熟れた果物を満たして捧げた。
 そうしてからどかっ、と勢いよく座り込む。墓石の前に胡座を組んだ。
「…あの、さ」
 暫く、沈黙が落ちたかのように黙り込む。
 どうやって話を切り出そうかと迷っているような風情で、ゼウスは困ったように墓石を見つめた。
「悪いけど……、暫くの間、来られそうにないんだ」
 さわさわ、とまたしても風がゼウスの側を吹き抜けていった。
 左手で首の後ろを掻きながら、あー、とか、うーなどと意味もない声を上げる。
「明日、ここを発つんだって。……なんの為か、わかる? …、うん。やっぱ、わかるよなぁ、あんたなら」
 決して返るはずのない言葉を、けれどきちんと聞き止めたかのようにゼウスは言葉を綴った。
 やれやれ、とでも言いたげに重く溜息を吐き出して、空を仰ぐ。今度はスミレ色の瞳は閉ざして。
 視界を失い、先程よりも風の気配が濃厚となった。その風に乗って運ばれる、野花たちの芳しい芳香も、潮の香りも。ゆるやかな波の音が、ゼウスの耳まで届く。
 ゆっくりと目を開ける。そして小さな、不格好な墓石を見つめる。
 その瞳は、凪のように。
 穏やかで。

「親父に会いにいくよ」

 ぽつりと、けれどしっかりと<彼女>に告げた。
「なんか…親父の世話係? みたいな待遇で母上が取り持ってくれたらしい。それで、どーにかして兄ちゃんと姉ちゃんを助けだせってさ」
 そこまで告げて、彼は表情を崩した。
 ははっ、と乾いた笑い声を上げる。
「…世話係って。オレにできると思う?」
 墓石に向かって問い掛けるが、無論応えが返るはずがない。
 自分で言うのもあれであるが、ゼウスは己が人の世話をするのに向いているとは思っていない。笑ってごまかせる親しい人物ならばともかく、相手は父親ともいえど一度も会ったこともない赤の他人同然。そのうえ神々の王という、なんだか偉い人物だ。
 そんな人物の世話係。
「無礼を働いたら一発でタルタロス行きになりそ……」
 それでは兄姉たちを助けるどころではない。
 あまりゼウスと会うことのできない母はともかくとして、長年共にいた祖母はどうしてそんな無謀な計画を止めてくれなかったのだろうかと、聞いた瞬間は思わず涙した。
 その時のことを思い出して、ふいにゼウスの視界がぼんやりと揺れる。それに気づいて、慌てて目頭を押さえた。逃げ出してしまいたくなるが、今回は祖母のいじめという名の修行をサボることとは訳が違うのだ。逃げてはならないし、恐らく逃げられもしない。
 彼は、この時のために、この場所で生かされてきたのだから――。
 ゼウスがまだ幼い頃は、イデ山の洞窟から出ることは叶わなかった。それは父親から彼の存在を隠すため。十五の時にようやく少しの時間だけ『外』へ出ることを許された。それは父親と対峙する彼を鍛えるため。全ては彼の姉弟たちを助けだし、父親を王位から退かせるため。
 はっきり言ってしまえば、ゼウスにとって母と祖母の思惑などはどうでもいい。祖母が怖いので口には出さないが。
 顔も知らない兄姉よりも、幼少の頃から共にいるニンフ達の方が大事であるし。父親の悪政も、クレタ島には届かなかったためか憎しみも、「なんとかしなくては」と思う気概も湧いてこない。
 父親に食べられてしまった兄姉たちを哀れだと思いはすれ、己の危険を顧みずに助け出そうと試みるほどゼウスは正義感溢れる神ではなかった。
「………」
 ゼウスは物言わぬ墓石を見据えながら、果物に満ちた<彼女>の片方の角に手を伸ばした。そのまま果物は墓石の前に花と共にそえ、角だけを持ち上げる。
 それからひょい、と身軽に立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行くから」
 <彼女>の角を腰布に落とさぬようにしっかりと差し込んでから、先刻までの重い空気を一転させ、飄々たる風貌で別れを告げる。
「また来るよ、アマルテイア」
 踵を返し、彼は後ろ手に<彼女>へと手を振った。
 だから恐らく<彼女>はその時のゼウスの顔を見ることはできなかっただろう。
 彼は、まだ幼さを残した顔立ちにうっすらと笑みを浮かべていた。不敵ともとれる、笑みを。
(母上も祖母ちゃんの思惑も関係ない。オレはオレのために、親父を王位から退かせる)
(兄姉たちには悪いが、そっちが一番)
(オレが――王位に就くんだ)

 そして<彼女>を空に――。
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プロフィール
Author:津川宥
日々妄想しながら、ぼちぼち小説を書いてます。
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